【裁判例紹介】退職後再雇用労働者の更新期待
2024/10/29
1.はじめに
会社と労働者との労働契約を、1年間などの期間を定めて締結するということがあります。これは、短期間に集中する業務を行なってもらうための契約ということもありますが、正社員(期間の定めのない労働契約を締結する従業員のこと)としての労働契約を締結する前に、一定の期間を契約社員とする運用がされていることも多くあります。また、労働力の調整幅として使われてきたという事情もあります。
多数回の契約更新が行われているのに、ある年に突然契約更新をしないということですと、労働者の生活に与える影響は解雇に等しいものがあります。そのため、労働契約法においては、①労働契約が反復更新されていて、契約更新しないことが解雇と同様となる場合、②労働契約への更新期待を労働者が有することに合理的な理由がある場合について、有期労働契約の更新拒否(雇止め)を制限しています(労働契約法19条)。
これらは、いわば現役世代が有期労働契約の更新を繰り返している場合を想定して作られた法律ですが、実際には、定年後再雇用者であって、従前の労働契約より低い条件を提示された労働者がこの法律を根拠に従前と同条件の契約の成立を主張する場合があります。
このような紛争をめぐる裁判例について今回は言及したいと思います。
2.事案について
原告である労働者は、システムエンジニアリングを業とする株式会社(A社)と定年退職後の再雇用として、有期労働契約を締結していましたが、A社は、原告が定年後再雇用となったその年に被告会社に吸収合併されました。
原告とA社とが締結した期間1年間の労働契約が終了するにあたり、A社を承継した被告会社は、被告会社の基準による契約の延長を提案しました。この内容は、原告にとっては労働条件の切り下げになるものであったと考えてください。
原告は、被告会社の提案を拒否し、労働契約法19条2号を根拠に、従前の原告とA社とが結んだ労働契約と同様の契約が更新されているという前提で、従業員としての地位確認等を求める請求を行いました。
3.事案の解決
本件は、東京地方裁判所労働部において、原告には契約の更新期待が生じていなかったとして、原告の請求を全て棄却する判決を行いました(東京地裁令和6年4月25日判決、労働経済判例速報No .2554 3p)。
注目されているのは、その理由です。東京地裁は、労働契約法19条2号において問題となる「更新」とは、直近に締結された労働契約と同一の労働条件で労働契約が締結されることであると解釈し、そういった期待を原告が持つことが合理的かどうかという判断を行うべきであるという枠組みを採用しました。
この考え方に対しては、有力な学者による、「更新」とは同一の当事者間における労働契約の締結と考え、労働条件を問わずに同一の当事者間での労働契約が締結されることに対して合理的な期待を持つかどうかが問題である、という解釈があります。東京地裁は、判決の中で、この考え方に立った場合には、労働条件の細かい異動を会社が提案している場合にはほとんどの場合更新期待が成立することになり、結局、労働条件の変更の提案が合理的なものであって、それを拒絶する場合には雇止めとなっても仕方がないと評価されるものかどうかという点での争いになってしまうこと、そのような争いを方が予定しているとはいえないことを指摘しています。
他方、東京地裁は、労働契約法19条の下敷きとなった判例法理の確立した最高裁判例(いわゆる日立メディコ事件、最判昭和61年12月4日)の判断過程を参照しつつ、従前と同一の労働条件の労働契約が締結されたものとみなすという労働契約法19条の効果に相応しい「更新への期待」とは何かという観点から、そのような大きな効果に相応しい期待とは、当初の契約と同内容での契約の締結がされるという期待である、と結論づけています。
4.まとめ
このように、労働法の分野では、立法に伴う解釈が確立していない分野が多くあり、自社にとって最適な手法を選択するためには、労働法に詳しい弁護士への相談を早期に行うことが有効です。
当事務所では、早めの相談を歓迎しておりますので、経営者の皆様は労働者とのトラブルが顕在化する前に、お気軽にご連絡いただければと思います。
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