日弁連会報誌「自由と正義」における「AIと法」特集について
2024/10/25
1.はじめに
全ての弁護士は、日本弁護士連合会(日弁連)に登録されていますが、この日弁連の会報誌は、「自由と正義」という名称です。
一般の方にはなじみがないでしょうけれども、毎月、全ての弁護士の事務所に届くので、弁護士の間では知らぬ者のない会報誌です。
同誌においては、毎号、各法分野に関する特集記事が掲載されますが、2024年6月号においては、「AIと法」が特集されました。
少し前になってしまいましたが、この特集について今回は言及したいと思います。
2.「AIと法」特集について
「AIと法」特集は、以下の4つの論考からなります。
(1)総論として「AIを取り巻く現状と今後の課題」(後藤大弁護士)
(2)憲法に関する課題として、「AI法制と憲法-EUのAI法制から何を学ぶか?」(慶応大学大学院 山本龍彦教授)
(3)音声データの生成に関する各論として、「生成AIと声優・歌手の実演」(柿沼太一弁護士)
(4)個人情報に関する各論として、「AIの利用と個人情報保護法上の論点」(北山昇弁護士)
各記事、全く違う角度からAIの利用に関する法的問題を論じており、それぞれたいへん読みごたえのあるものでした。
本稿では、これらの記事のポイントと、筆者が気になった点についてコメントすることで、2024年10月時点におけるいち弁護士のAIに関する考え方を書き残すこととしたいと思います。
3.各記事のポイントと気になった点について
(1)論考「AIを取り巻く現状と今後の課題」について
本論考は、あまり生成AIに明るくない読者向けに、AIと呼ばれているものの現状を説明し、既に議論されている法的な課題について概観するものです。
AIの簡単な説明としては、一口にAIの利用といっても、AI開発・学習段階と生成・利用段階に分けて場面を想定する方がわかりやすいこと、現在においては、自然言語処理や画像認識などの分野で応用されつつあることが記されています。
既に議論されている法的課題については、AIを使ったプロファイリング(個人が公にしていない情報の推知)の問題、知的財産権上の問題(AIが特許法上の発明者となりうるかという点)などが挙げられていました。確かにどこかで聞いたことがありますが、改めて整理されているので、自身の関心に従って更なる検討を進めるために有用な記事となっています。
(2)「A I法制と憲法―EUのA I法制から何を学ぶか?」について
本論考は、EUにおけるA Iに対する規制を概観し、GDPR(EUにおける個人データ保護法であり、厳格なものと評価されています)が一部A I法制として機能していること、EUにおいてはその基本権憲章において個人データの保護が規定されていることが指摘されます。そして、2024年5月に成立したAI法(EUにおける法規です)が憲法を具体化した法という性格を持つことが描写されます。
もちろん、一弁護士として、GDPRがその内容・運用ともに厳格なものであることは理解していましたが、EU議会がそのような法制を取ることの理由が理解できないでいました。しかしながら、上記の山本教授の論考を読むと、EUにおいては個人データの保護が憲法上の権利として規定されており、これの具現化のためにGDPRがあるという構造が理解できます。加えて、新しく制定されたA I法制が同様に憲法上の権利の具体化であるという発想を持てば、同法制が厳格に運用されることが予想されるという予想もたつと考えました。情報法制の日本における位置付けとEUにおける位置付けが少なくとも現時点においては全く異なる(山本教授の問題意識もここにあるものと考えられます)ことがよく理解できました。
(3)「生成AIと声優・歌手の実演」について
本論考は、架空の生成AIが声優・歌手の声を学習し、新たにナレーションや歌唱を行う場合、特定の声優のナレーションを行う場合をケースとし、これまでの判例法理(最判平成24年2月2日。いわゆるピンクレディー事件最高裁判決)を適用した場合の帰結を論じる、という内容でした。
各著作物等の利用や著作権等への侵害の有無について、(1)論考において説明がされた、開発・学習段階と生成・利用段階に分けて論じられており、未知の問題に対する考え方の一つのモデルであると感じられました。自分自身でも、生成AIを事業に活かす上での相談を受けることがままありますが、これまでの検討手順と大きく変わらないものの、その点検を行うことができました。
(4)「AIの利用と個人情報保護法上の論点」について
同論考においては、事業者がAIを開発・利活用する場合における個人情報の取り扱いについて、個人情報保護法の適用・解釈について論じるものです。
個人情報保護法の基本的な枠組みから、具体的に個人情報保護法上問題となりうる行為を挙げています。
特に事業者が意識せずやってしまいそうだなと感じたのは、生成AIのプロンプトに個人情報を含む情報を入力してしまうというものです。この辺りは、これからの収集する個人情報については、事前承諾を得ておくことを検討しておくべきだろう、と考えました。「提供された個人情報は、各顧客への最適な提案のためにその一部を機械学習システムへの指令に組み込むことがあります」というような内容であればそこまでのハレーションは起こらないようにも思われます。ただし、まさにこのような利用が(2)で論じたEUの情報法制においても懸念されているとも考えられ、今後の世界的な潮流と日本の個人レベルでのハレーションの有無がリンクしてくるのではないかと考えました。
また、外国法人への情報の受け渡しについておさらいとして個人情報保護法の制度を概観できるという意味でも良い記事であったと感じています。
4.まとめ
普段通読することはあまりない自由と正義ですが、生成AIが各企業の業務に影響を与えることは必至であり、弁護士としても避けては通れない話題であると感じています。
生成AIについて、使ってみるという経営者の方はおられると思いますが、なかなかその法的な問題点まで認識される方は多くないと考えられます。
当事務所では、オンラインでの顧問相談もお受けしていますので、ぜひ専門家の力も借りながら、新しい事業・ビジネスチャンスへのアプローチを行なっていただければと思います。
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