【多摩 労働紛争】アイドルは労働者か(労働裁判例紹介07-01)
2022/03/08
【多摩 企業法務】アイドルは労働者か
労働裁判例紹介07-01Hプロジェクト事件(東京地裁令和3年9月7日判決)
1.はじめに
今回は、労働裁判例紹介として、最近判決がされた、Hプロジェクト事件をご紹介します。
この事件では、アイドル活動をしていたZ(本訴提起時点ですでに死亡していた)の相続人である両親が、Zが生前所属していたアイドルグループの運営会社に対して、未払い賃金として、合計10万円ほどの支払いを求めました。
この事件を題材に、労働基準法がどのように使用者・労務の提供者に対して影響を与えるのかについて簡単に解説していきたいと思います。
2.どのような請求か。
(1)概要
本件は、報道などで見る限り、アイドル活動をしていたZが、若くして命を絶ってしまうという悲劇的な結末から、大きく注目を浴びたものと思われます。
原告らは、Zの親(実母と養父)であり、夫婦です。
未払い賃金10万円ということであると、当然に訴訟に関する労力・費用に見合ったものではなく、この訴訟はアイドルの待遇に現在も問題があることを前提とした意見の表明のための訴訟という性格を有すると考えられます。
原告らは、Zが、被告であるアイドルグループ運営会社との関係で労働基準法上の労働者であったことを前提に、特産品の販売応援の業務に関して、最低賃金による賃金の支払いを求めたものです。
(なお、Zの所属していたアイドルグループは、農産物の生産、販売活動を行うことを特徴としていたようです)
被告は、上記の特産品の販売応援について、平日のみといった限定はあるものの、1回2000円から6000円程度の手当てを支払うこととしており、この定められた金額についてはZに対して支払っていました。
それでも、原告らは、未払い金がある、として裁判を起こしています。
どのような請求なのでしょうか。
(2)請求の内容
原告は、Zが、労働基準法上の労働者に当たり、労働者には少なくとも最低賃金の定めが適用されるから、最低賃金による算出した賃金額と、被告からの既払いの額の差分について、Zは未払い賃金として請求できると主張したのです。
何も約束をしていないのに、賃金を支払う必要があるというのはぴんと来ないかもしれません。しかし、何も合意がなくても、労働基準法が適用されるような労働者として、誰かに働いてもらった場合、最低賃金により算出した賃金について、使用者は支払わなければなりません。
これは、最低賃金法が、賃金が低廉な労働者を保護するため、最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で、最低賃金に達しない賃金を定めるものはその部分について無効とし、向こうになった部分については最低賃金と同様の定めをしたものとみなしているからです(最低賃金法第4条2項)。最低賃金法における労働者とは、労働基準法に規定される労働者とされていますから(同法2条1号)、労働基準法上の労働者に当たるとすれば、最低賃金法の適用があるということになります(一部例外もあります)。
最低賃金法が、労働基準法が適用される労働者をその適用対象とするのは、労働基準法が、労働者を保護するための最低基準を定めた法律だからです。
したがって、上記の訴訟でいえばZが、労働基準法上の労働者に当たる場合、Zについても最低賃金が適用され、使用者は、最低賃金で計算した給料を支払わなければなりません。上記の主張はそのことを言っています。
3.まとめ
芸能事務所の社長としては、まさかZが労働者であるとは考えておらず、Zの労働者性が認められてしまうと、他のタレントや研修生に対しても最低賃金を支払う必要が発生し、経営上は非常に厄介なことになると推察されます。
労働問題は、このように、思いもよらないところから、経営上の打撃を与えることになりかねませんから、普段から専門家と相談して進めることが必要です(労働問題)(法務パートナー)
本件に関する解決は次回のブログに掲載します。
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